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相続人が相続放棄をしつつ遺贈により遺産を取得できるの?【相続手続きの相談窓口】


【事例】
被相続人は多額の負債を残して亡くなりました。
しかし、その所有する無担保の不動産や高価な動産類については、相続人らに遺贈する旨の遺言書を作成していた。
受遺者である相続人らは、相続放棄をして相続債務の負担は免れつつ、遺贈を受けた遺産については取得しようと考えているが、そのようなことは可能なのでしょうか?

本当のところはどうなるんでしょうか

【解説】
1.前提
まず、本事例のような相続人の行為が問題となるのは、相続人に対して特定遺贈や死因贈与が行われた場合になります。
相続人に対して積極財産たる遺産を取得させる方法としては、ほかに遺産分割方法の指定や包括遺贈が考えられますが、これらの場合には、相続債務も承継することとなり、その負担を免れるに相続放棄や包括遺贈の放棄を行うと、積極財産たる遺産についても承継できなくなります。
したがって、相続人に対して遺産分割方法の指定や包括遺贈が行われた場合であれば、相続債務の負担を免れつつ積極財産たる遺産のみを取得することはできなくなります。

2.本事例のような特定遺贈の場合
本事例のように、相続人に対して特定遺贈が行われた場合には、相続放棄をして相続債務の負担を免れつつ、積極財産たる遺産を取得することは可能なのでしょうか?
特定遺贈で取得した積極財産以外の財産で相続債務を完済できるような状態であれば特に問題は生じないものと思われます。
しかしながら、特定遺贈と相続放棄が行われることにより、相続債権者が害されるような場合であれば、やはり問題があると言えます。
この点については、あまり議論されていないようですが、債務の返済が困難な資産状態の中で特定遺贈が行われ、責任財産の減少が来されるような場合には、当該特定遺贈が詐害行為取消権(民424)の対象となるのではないかという点が問題になり得ます。
遺贈も法律行為である以上、その適用可能性を否定することはできませんし、例えば、遺産分割協議について、亡夫の遺産を相続人たる妻(債務者)が取得せず、ほかの相続人である子らに取得させる遺産分割協議を行ったことが詐害行為にあたるとして、妻の債権者による詐害行為取消権の行使を認めた最高裁判例もあります。
ちなみに、限定承認をした相続人が死因贈与による不動産の取得を相続債権者に対抗することは信義則違反とする最高裁判決もあり、債務負担を免れつつ積極財産である遺産のみを取得しようとする行為に対する裁判所の厳しい態度が見て取れます。
このような傾向からすると、相続人が相続債権者のを害することを知りながら、相続放棄をしつつ遺贈により遺産を取得しようとしても、詐害行為取消権の対象とされたり、権利の乱用と判断されるリスクもあるものと思われます
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