賃借物件を引き払うと相続放棄できなくなるの?【相続手続きの相談窓口】

【疑問】
〇相続人から被相続人の賃貸借契約を解約しても相続放棄できるか?
〇大家から賃貸借契約解約に基づく明渡請求に応じても相続放棄できるか?
〇家財を処分しても相続放棄できるか?

【解説】
①単純承認、限定承認、相続放棄の選択権
民法上は、相続人には、相続をするか否かについて単純承認、限定承認、相続放棄の選択権が認められています。
熟慮期間内であれば、相続人は、家庭裁判所に対して相続放棄の申述を行うことで相続放棄ができますが、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分」した場合は単純承認したものとみなされ、以後、有効な相続放棄はなし得なくなります。
賃借物件の賃貸借契約の解除は、債務の増加を防止するという点に着目すれば、保存行為と評価される可能性もあると思われますが、他方で、賃借権を消滅させるという効果に着目すれば、処分行為と評価される可能性は十分にあると思われます。
よって、結果的に相続放棄をしなかった場合、無駄な債務を負担する結果となりますが、上記のリスクからすれば、相続放棄をするか否かについて確定するまでは、相続人から賃貸借契約の解約を行うべきではなく、相続放棄後に、事務管理として賃貸借契約の解約を行うべきでしょう。
ただし、相続放棄であっても、解約に伴う明渡に際して賃借物件内の家財等を着服すれば、単純承認したとみなされる可能性があるため注意が必要です。
②大家からの賃貸借契約の解約後、明渡しの請求に応じた場合
相続人からではなく、大家から賃貸借契約の解約がなされ、その後、明渡しの請求に応じることは、弁済期の到来した債務の履行として保存行為に当たるため、特に問題ありません。
ただし、この場合でも、家財を処分すると処分行為があったとされる可能性があるため、相続放棄をするか否かについて確定するまでは処分はするべきではないでしょう。