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遺言書の検認申立てをしない相続人は相続欠格となるのか?【相続手続きの相談窓口】



「疑問」
相続人Xは、遺言書を保管しているにもかかわらず、その内容を明らかにせず、検認申立てもしない。このような行為は遺言書の隠匿に等しいと思うので、相続欠格事由に該当すると見て、Xを除外して遺産分割協議を行っても差し支えないか?

「よくある誤認」


「本当のところは」


         
 「解説

1.遺言の破棄、隠匿と相続欠格
 遺言書が存在しているにもかかわらず、これを破棄又は隠匿すれば、民法第891条第5号に該当し、相続欠格として、法律上、当然に相続権を失うことになるほか、受遺者にもなれないとされています。(民965)

2.最高裁判所の解釈
 最高裁平成9年1月28日判決は、遺言書を破棄又は隠匿した場合において「相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法891条第5号所定の相続欠格には当たらないものと解釈するのが相当である」としています。
これは、民法891条第5号の趣旨を、遺言に関して著しく不当な干渉をした相続人に対して相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を科そうとするところにあると捉え、遺言書の破棄又は隠匿が相続に関して不当な利益を目的とするところではなかったときは、これを遺言に関する著しい干渉とすることはできず、このような行為をした者に相続人としての資格を失わせるという厳しい制限を科すことは、民法891条第5号の趣旨に添わないとする見地からだと言われております。

3.不当な利益目的の有無の判断
 したがって、本事例においても、もともと遺言書の内容が相続人Xにとって有利なものである場合には、通常、Xに不当な利益目的を認めることはできず、Xは相続欠格に該当しないものといえます。しかしながら、隠匿したものに有利な遺言書の内容であっても、遺留分減殺請求を受けることをおそれ、遺産の全部を一人で承継することを画策し、相続開始後2年余りにわたって他の共同相続人に遺言書の存在を隠匿していたケースで、相続欠格に該当すると判断された裁判例もありますので注意が必要です。
結局、当該隠匿ケースが、相続欠格に該当するか否かの判断は、民法891条第5号の立法趣旨に照らして個別的に検討していく必要があります。
    
4.遺言公正証書の場合
 なお、遺言公正証書を破棄又は隠匿した場合はどうでしょうか?
 遺言公正証書については、その原本が公証人役場に保管されていることや、平成元年以降に作成されたものであれば、日本公証人連合会において、全国的に、遺言公正証書を作成した公証人役場名、公証人名、遺言者名、作成年月日等を調べることができ、そもそも隠匿はあり得ないのではないかと疑問が生じます。
しかしながら、大阪高裁昭和61年1月14日判決(判時1218・81)、東京高裁平成3年12月24日判決(金判963・8)のような判決もあることから、遺言公正証書だからと言って当然に隠匿の対象から外れるわけではなく、その内容が隠匿した者に有利な内容であったか否かや、ほかの相続人がその存在を知っていたり、遺言執行者を通じて知り得る状況にあったか否かなどの事情を考慮して、隠匿に該当するか否かを判断しているものといえます。

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