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遺産分割の落とし穴【相続手続きの相談窓口】

後見人と被後見人との遺産分割協議の落とし穴1


【事例】
後見人と被後見人との間の遺産分割協議に関し、被後見人に特別代理人が選任されたが、結果として、後見人に著しく有利な遺産分割が成立した。
この遺産分割に問題は無いか?

【よくある誤認】
後見人と被後見人との遺産分割協議に関し、被後見人に特別代理人が選任された場合には、それにより被後見人の利益保護に欠けることはないから、仮に後見人に著しく有利な遺産分割が成立したとしても(特別代理人の義務違反の問題はともかく)、当該遺産分割は、瑕疵のない法律行為である。

【実際のところは】
後見人と被後見人の遺産分割協議に関し、被後見人に特別代理人が選任された場合であっても、成立した遺産分割が後見人に著しく有利なものであったときには、法律行為が一応有効とはいえても、被後見人において更に取り消し得る法律行為となる場合がある。

【何故なんでしょう】
本事例のような場合、法的にはどのような問題点があるでしょうか?
この点、山形地裁昭和45年12月8日判決は、後見人と被後見人が共同相続人となった遺産分割協議の事案において、被後見人のために選任された特別代理人が遺産の大部分を後見人に取得させる旨の後見人に著しく有利な遺産分割協議を成立させた場合に、民法866条の規定の適用を肯定し、被後見人は民法866条による取消権を有するものと判示しました。
民法866条1項
後見人が被後見人の財産又は被後見人に対する第三者の権利を譲り受けたときは、被後見人は、これを取り消すことができる。この場合においては、第20条の規定を準用する。
同条2項
前項の規定は、第121条から第126条までの規定の適用を妨げない。
本事例のような遺産分割協議が成立したとしても(特別代理人の義務違反はともかく)、当該法律行為自体が無効にはならないわけですが、上記判例は、民法866条の規定を適用を肯定して、その遺産分割協議自体が被後見人において取り消し得る法律行為としたわけです。
このように、後見人と被後見人との間の遺産分割協議においては、親権者と未成年者間のケース以上に、被後見人の保護の範囲が広く捉えられる余地があるわけです。

後見人と被後見人との遺産分割協議(特別代理人が選任されなかった場合)の落とし穴2


【事例】
後見人と被後見人との間の遺産分割協議に関し、被後見人に特別代理人が選任されないまま、被後見人にとって有利な内容の遺産分割協議が成立した。この遺産分割協議に問題はないか?

【よくある誤認】
後見人と被後見人との遺産分割協議に関し、特別代理人が選任されなかったとしても、それが被後見人にとって有利な内容である場合には、被後見人の利益保護に欠けることはないから、当該遺産分割は法律上有効であると考えてよい・

【実際のところは】
後見人と被後見人との遺産分割協議に関しては、被後見人に特別代理人が選任されなかった場合は、成立した遺産分割が被後見人にとって有利なものであるか否かにかかわらず、法律上無効である。

【何故なんでしょう】
後見人の利益相反行為に関し、民法860条は準用する民法826条1項は「親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。」と規定しています。
すなわち、後見人と被後見人との関係で利益相反行為が生じるときには、特別代理人の選任を請求するものとされているわけです。
遺産分割協議は、相続人間の利害が相反する行為であり、後見人と被後見人が共同相続人となる場合には、後見人は家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければなりません。
これに反して行われた遺産分割協議は、無権代理行為として無効になるものとされています。
このことは、後見人が自己に有利な遺産分割協議を成立させた場合には問題が顕著ですが、本事例のような、後見人が自ら不利益を甘受し、被後見人にとって有利な遺産分割協議を成立させた場合には、無効とする必要はないのではないかという疑問も生じます。
この点、民法860条の利益相反行為に当たるか否かについては、民法826条と同様、行為の外形から判断する「外形説」と、行為の実質を重視する「実質説」が考えられますが、基本的に判例実務の立場は、外形説をとっているものと思われます。
したがって、後見人と被後見人との間の遺産分割協議については、当該遺産分割の内容が被後見人にとって有利なものか否かにかかわらず、特別代理人の選任が無ければ、無効になるというのが端的な結論です。
なお、成年後見事件の実務おいては、身上監護を近親者が行い、財産管理を弁護士が行うという事務を分掌して権限を行使する場合があります。
この場合、後見開始審判書謄本や後見登記記録そのものに明確に事務分掌が記載されており、相続人としての近親者(被後見人について身上監護権のみの後見人)と、被後見人の財産管理権のある後見人(弁護士)との間で遺産分割協議が行われる場合であるときには、特別代理人の選任は不要であるものと考えてよいと思われます。
未成年者の後見事例においても、後見事務が分掌されることはありますので、同様の注意が必要です。

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