遺言書に遺言執行者をつけるべきケース【相続手続きの相談窓口】
まず、遺言書作成は生前対策の基本中の基本ですが、遺言書は残すことが目的ではなく、遺言の内容を実現させることが大きな目的です。
相続人や受遺者が仲が良い場合であっても下記の場合は遺言執行者を指名することをお勧めします。
①認知症や知的障害により判断能力が欠如している相続人がいる場合。
⇒遺言執行者を決めておけば遺言をスムーズに実現できる
②相続人の中に行方不明者がいる場合。
⇒遺言書がある場合は、法定相続分より遺言書が優先しますので、司法書士などの専門家を遺言執行者に指定すると相続財産の移転をスムーズに行える
③相続人の仲が悪い
⇒専門家を遺言執行者にすることで、相続人どうしの無益な争いを回避し粛々と遺言を実現することができる
④相続人に未成年者がいる場合
⇒孫養子などをしている場合で、そのことをあまり好ましく思っていない相続人との軋轢が生じる可能性がある場合や、未成年の子に多くの遺産を残すことを良いと思えない場合は遺言執行者を決めておくべきです
⑤遺言書で子の認知をする場合
⇒子を遺言で認知する場合は必ず遺言執行者を指定する必要があります
⑥相続人の廃除又はその取消し
遺言で相続人の廃除をする場合や、その取消しをする場合にも遺言執行者を指定しておくべきです
⑦相続人がいないケースで遺贈を行いたい場合
⇒遺言書の内容を実現するためにも遺言執行者を指定するべきです
遺言執行者の指定・権利義務【相続手続きの相談窓口】
【遺言執行者の指定・委託】
遺言執行者は遺言にかかれたことを忠実に執行すればよいので、特に資格要件はありません。
遺言者は、遺言によって、遺言執行者を指定することができます。
遺言執行者に指定された者は、自由な判断で遺言執行者への就職を承諾するか否かを決定すればよく、承諾すべき義務はありません。
【遺言執行者の権利義務】
「遺言執行者の権利」
①費用償還請求権
遺言執行者が遺言を執行するために必要な費用を支出した場合、相続人に対してその費用の償還を請求できます。ただし、遺言の執行費用は、相続財産の負担とされていますから、相続人の固有の財産に対して執行することはできません。
遺言執行者が必要な債務を負担したときは、相続人に対し、自己に代わって弁済することを請求できます。
遺言執行者が過失なく損害を受けた場合は、その損害の賠償を請求できます。
②報酬請求権
㋒遺言執行者は遺言執行の報酬を請求できます。遺言に報酬の定めがあれば遺言により、なければ家庭裁判所に決めてもらいます。
「遺言執行者の義務」
①善管注意義務
遺言執行者は、善良なる管理者の注意をもって、任務を遂行する義務を負っています。
②報告義務
遺言執行者は、相続人の請求があるときは、いつでも遺言執行の状況などについて報告する義務があります。
③受取物引渡しの義務
遺言執行者は、遺言執行にあたって受領した金銭その他の物を相続人に引き渡さなければなりません。
④任務開始義務
遺言執行者は、就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければなりません。
⑤財産目録の作成・交付義務
遺言執行者は、財産目録を作成し相続人に交付する義務があります。
⑥補償義務
遺言執行者には、相続人に引き渡すべき金銭等を自己のために消費したときは損害等を賠償しなければなりません。
⑦通知義務
遺言執行者の行為の効果が相続人らに帰属し、また、遺言の執行を妨げる行為ができないため、相続人らは遺言の内容や遺言執行者の行為に重大な利害関係があります。そこで相続人らの利害に配慮し、遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。
「遺言施行者の復任権」
遺言執行者は遺言に別段の意思が表示された場合を除き、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができます。
なお、「やむを得ない事由」があって復任したときは、相続人に対して選任及び監督についてのみ責任を負うこととなります。
遺言執行における預貯金払戻し権限【相続手続きの相談窓口】
【遺贈の場合】
預金の遺贈の場合は、遺贈義務者による債務者に対する通知がなければ債務者(銀行等)に対抗できないため、遺言執行者による通知が必要であり、遺言執行者が払戻し権限を有することに争いはありません。包括遺贈の場合も同様です。
【相続させる旨の遺言の場合】
「相続させる」旨の遺言の対象が預貯金債権の場合、遺言執行者は「遺言の内容・・・を明らかにして債務者(銀行等)にその承諾を通知」することに加えて、その預貯金の払戻しの請求及び解約の申入れをすることができます。
【具体的な遺言記載例】
「遺言者は、遺言執行者に対し、預貯金の払戻し、解約及び名義変更、貸金庫の開扉及び内容物の受領、貸金庫契約の解約、有価証券及び株式の名義変更及び売却、不動産の登記手続その他本件遺言の執行に必要な一切の行為を行う権限を与える。
遺言執行者は、代理人をして遺言執行させることができるものとし、その選任については遺言執行者に一任する」
遺言執行者が死亡した場合の対処【相続手続きの相談窓口】
【遺言者が生存中に遺言執行者が死亡した場合】
遺言者が生存中に公正証書遺言で遺言執行者に指定した人が死亡した場合、あるいは、公正証書遺言で指定した遺言執行者が死亡していなくても、その遺言執行者を外して別の遺言執行者に指定する公正証書遺言をすることができます。
遺言執行者を変更する場合には、新たに遺言執行者に指定する者の氏名、生年月日、住所、職業を公証人に通知します。もちろん公正証書遺言ですので、この場合も証人2人は必要です。
これらは、いずれも公正証書う遺言の変更であり、手数料は算定不能の11,000円と目的の価格が1億円までの遺言加算の11,000円の合計22,000と用紙手数料の数千円が必要になります。
【遺言者が死亡した後に遺言執行者が死亡した場合】
遺言者が死亡した後に遺言執行者が死亡した場合や、遺言執行者が死亡した直後に遺言者が死亡して、新たな遺言で遺言執行者を指定できない場合は、利害関係人が家庭裁判所に請求して遺言執行者を選任してもらうことができます。