遺言とは
遺言(いごん・ゆいごん)とは,被相続人の最終の意思表示のことです。
遺言を作成しておくことにより,相続財産の承継について,被相続人ご自身の意思を反映させることが可能となります。ただし,遺言(ゆいごん)はただの遺書(いしょ)とは違います。法律で定められた方式で作成されたものでなければ法的効果を生じません。法律で定められた普通方式の遺言としては,自筆証書遺言,秘密証書遺言,公正証書遺言があります。
その他に特別方式の遺言としては、死亡危急時遺言,伝染病隔離者の遺言,在船者の遺言,船舶遭難者の遺言があります。特別方式にも法的効果を生ずるための要件があります。
ただ、一般的に知られているのは普通方式の遺言であり、その法的要件を知っていれば良いように思います。
自筆証書遺言
ご高齢の方などで、自分で字を書くことを嫌う方がいらっしゃいますが自筆証書遺言の場合は代筆は許されませんので必ず自分自身の字で書く必要があります。もし仮に自分以外の人(自分の子供や親族)が代理で記入した場合は、その遺言書自体が無効となりますので注意が必要です。
自筆証書遺言を発見した者は家庭裁判所で検認の手続きをしなければなりません。
検認無しで開封した者は、5万円以下の過料に慮される場合があります。
公正証書遺言
(民法969条)
公正証書とは何でしょう。公正証書とは当事者に頼まれて第三者である公証人が作成した文書のことを言います。公文書として扱われるため、法的紛争の際に文書が真正であると強い推定が働きます。
公証人とは何でしょう。公証人とは法務大臣に任免された公正証書の作成者です。法律の実務に深くかかわった人から選ばれます。
公証役場とは何でしょう。公証役場とは公証人が在籍する役所のことを公証役場といいます。公証役場は全国にあり、足を運べない場合も公証人に出張してもらうことができます。
つまり、公正証書遺言は依頼者が公証人に内容を伝え、それをもとに文書が作成されます。ですから法的有効性の高い遺言といえます。
秘密証書遺言
秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)とは、公証人と証人2人以上に遺言書の「存在」の証明をしてもらいながら、公証人、証人、相続人含め、本人以外内容を見ることができないので、遺言内容を「秘密」にすることができる遺言書の形式です。
存在を証明しているのであって、公証人も証人も遺言書の内容に関与していないことから、有効性に関しては公正証書のような信頼性はありません。
また、遺言書の保管も自身で行う必要があります。(民法970条)
秘密証書遺言は遺言者の死後、本文は自筆で作成しなくてもよいこと(ワープロなどで作成可・署名は自筆)。遺言書が発見されないケースを防ぐことができること。遺言の内容を秘密にしておくことができることが特徴です。
秘密証書遺言も自筆証書遺言と同じく家庭裁判所での検認が必要になります。
法改正により秘密証書遺言のメリットが少なくなり、利用されるケースはほとんど無くなってきました。
相続と遺贈の違い
なお「遺言」を残すには、遺言書を作成する必要があります。
他方、相続は、法律で決まった関係者に対してのみ発生します。 例えば、夫が亡くなった場合、その配偶者や子などが相続人となります。
遺贈と死因贈与の違い
「死因贈与」は、生前に被相続人が財産を渡す相手を契約によって決めている場合を言います。契約行為ですので基本的に当事者の合意が必要になります。
遺言(ゆいごん)と遺書(いしょ)の違い
遺書とは主に、死後のために書き残された手紙のことをいいます。死を覚悟した人が残す手紙のことで、その内容としては残された人にどうしても伝えたいような、プライベートなことや、お別れの言葉などを記したものになるかと思います。
エンディングノート
エンディングノートとは、自分の身に何かがあった時に備えて、家族が様々な判断や手続きを進める際に必要となる情報を残すためのノートです。
例えば、次のような内容を書き留めていきます。
・延命措置を希望するのか
・動けなくなった時の介護の方法
・葬儀のスタイルや、お葬式には誰に来てほしいのかなど
・遺産相続
・お墓のこと
・供養の方法
・財産の内容
・遺言書の保管場所
など、さまざまです。
しかしながらエンディングノートは「死に向かう」ためだけのものではありません。自分の人生を振り返り、自分を見つめ直し今後に生かすために頭を整理することができるとても便利なツールなのです。
付言とは
遺言を残すという人の多くが自分が死んだ後に家族が揉めることが無いようにという思いやりから残されるのだと思います。
その遺言に家族への感謝の気持ちや遺言内容の理由などを付言することで残された家族が揉めることを防ぐこともできます。
注意としては、「残念な付言」というものがあり、相続人に対する小言や批判を付言事項にしてしまうことです。
小言や批判を受けた相続人が逆切れして遺言書の無効などを提起してきたりする可能性もありますので、付言事項は思いやりのある内容に留めましょう。
遺言能力とは
遺言能力とは、遺言をするために必要な行為の結果を弁識、判断しうるに足る意思能力である。
(民法961条~963条)
よく、「遺言を残すにはまだ早い」なんて言われる方がいますが、遺言は心身の状態が良い時が「残し時」なんて言われます。
なぜかというと、遺言は遺言能力を有しているときでなければ遺言を残すことができないのです。
病気や高齢の時に残した遺言は「遺言能力に疑いあり」とされ無効になる危険性も含んでいるのです。
ちなみに、遺言は15歳から残せるので15歳の年齢は遺言能力があるということです。
清算型遺言(遺贈)とは
清算型遺言(遺贈)が利用される主なケースは、
- 現金や預貯金の割合が少なく、財産を換価しないと平等に分配することが難しい
- 相続後に空き家となってしまう財産がある
- 被相続人に多額の債務があるが、債務超過ではない
※債務超過の場合は相続放棄すべきなので - 相続人や受遺者に相続税の納税資金に不安がある人がいる
遺言執行者
(民法1006条~1021条)
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権限を有しており(民法1012条)、相続人は遺言執行を妨げることはできません(民法1013条)。
したがって遺言執行者は、相続人の意向にかかわらず遺言を執行できます。
相続人が相続したくない不動産
不動産は所有しているだけなら、固定資産税などの管理費がかかりマイナスを生む財産でしか有りません。
相続人が相続したくないと思う不動産不動産とは?
①負動産(貸地や古アパート)
収益が低くマイナス。借地人・借家人とのかかわり。売却に制約がつく。
②土壌汚染された土地
対処費用が高額
③アスベスト使用建物
解体費用が高額
④築年数が古く管理費の高いリゾートマンション
安くても売れず、管理費・修繕積立金が高い
⑤がけ付近の土地、高低差のある土地
擁壁工事が高額、災害リスクが高い
⑥活断層・液状化・津波・造成宅地防災区域内
自然災害への意識が高まり、価格下げの要因
⑦市街化調整区域
原則建物が建てられない。
上記のような不動産をお持ちの方は、ご家族で話し合い、相続人が欲しがらないようであれば、生前に対策をこうじておくことが思いやりではないでしょうか?
遺言作成時の相続税の考慮
「相続税は〇〇銀行の預金から納税したください。」というような内容はもちろん。
それ以外にも下記内容を考慮すると喜ばれるんじゃないでしょうか?
①小規模宅地についての考慮
小規模宅地の特例は大きな節税効果のある特例です。特例の適用要件を踏まえた宅地等の取得者を遺言によってどのように相続させるか決めてしまうことができます。
②配偶者の税額軽減についての考慮
配偶者の税額軽減も大きな節税効果のある規定です。配偶者が取得する財産の財産総額(1億6000万円以下または法定相続分以下)を踏まえ、遺言によってどのように相続させるか決めてしまうことができます。
③納税資金への配慮
相続税がかかるか否か、どれくらいの相続税を収めるのかは、税理士の納税シュミレーションを必要としますが、ざっくりでも対処できる場合もあります。その際どの財産を相続税の納税に充てるかを考慮してあげましょう。相続税の納税期限は10か月ですので、不動産など換金に時間がかかるものではなく、できるだけ換金性の高い財産が良いと考えます。
④第2次相続への配慮
配偶者の税額軽減が大きいからといって財産を配偶者に集めすぎてしますと、次に配偶者の相続が発生した時に収める相続税が多くなることも考えられます。第2次相続における相続税負担とを総合的に考えることも大事です。
⑤定期的な見直し
「相続税対策に既得権無し」といわれるように、税制は毎年改正されますので、定期的な遺言書の見直しを考慮してください。
実際に個別具体的な納税シュミレーションや相談にお答えできるのは税理士に限ります。
税理士以外の専門家は一般論しかお伝え出来ません。
ですから、税理士に依頼する必要があるのか、一般論を聞いて自分たちでシュミレーションできるレベルなのかを判断して遺言作成時の相続税を考慮しなければなりませんね。
自筆証書遺言作成の注意点
1.法的要件を満たしていないと無効とされてしまう可能性があること。
⇒専門家のサポートを検討する。
【法的要件とは】
①全文自書(財産目録の部分については、自筆以外の方法(ワープロなど)が認められることになりました。できれば、ご自身で書いた他の文書などを同封してくと筆跡を疑われにくくなります。)
②日付の自書(年月のみで日付のない場合、または○年○月吉日などは無効。日付が大切な理由は複数の遺言が出てきたときにその先後の判断に必要ですし、遺言能力を疑われないためにも正しい年月日の記載を要します。)
③氏名の自書(氏名は戸籍上のものでなくても通称でもかまいません。が、住民票に記載された氏名を記載することをお勧めします。また、住所は要件には入っていませんが住民票通り住所を正しく記載することもお勧めしています。)
④押印(実印でも認印でもかまいません。ただ実印があるなら実印をお勧めします。実印を押印したら、印鑑証明書も同封することをお勧めします。)
⑤加除その他の変更(加除その他の変更は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければならない(民法968条2項)。なお、この方式にのっとっていない訂正等は無効になりますが遺言までは無効にはなりません。)
2.高齢の方の自筆証書遺言は遺言書能力を疑われて紛争が生じたり、無効とされてしまう可能性がある。
⇒遺言書を作成しているところを録画することを検討。
3.相続人に遺言書を発見されないリスクがある。
⇒・信頼できる相続人に託す。或いは保管場所を伝えておく。
・エンディングノートを作成し保管場所を記載しておく。
※貸金庫での保管はしないようにしましょう。
4.変造・偽造・破棄のリスクがある。
⇒法務局の保管制度利用を検討。
5.家庭裁判所の検認手続きが必要となります。
⇒法務局の保管制度利用を検討。
法務局で保管されていた自筆証書遺言は検認不要です。それ以外の自筆証書遺言を検認なしで開封した者は、5万円以下の過料に処される可能性があります。
また、遺言書を故意に破棄・秘匿・隠匿した者は、相続欠格となる可能性もあります。
ちなみに家庭裁判所での検認が必要な遺言は、法務局で保管されていたもの以外の自筆証書遺言だけではなく、秘密証書遺言も検認が必要になります。
遺言書を作成すべき代表的なケース
①子供がいないので配偶者に全財産を渡したい
⇒兄弟姉妹に相続権が発生することを回避できる。兄弟姉妹には遺留分侵害額請求権がありません。
②相続人に認知症・障害者・行方不明者がいる
⇒遺産分割協議が難航するのを回避できる。
③遺留分の権利を持つ者に財産を渡したくない
⇒遺留分侵害額請求に備えた遺言条項で争続防止。
④法定相続人が1人もない場合
⇒遺産が国に没収されることを回避。
⑤内縁の配偶者に財産を渡したい
⇒相続権のないものに確実に財産を渡す。
遺言は相続対策の基本です。
遺産の大小に関係なく、先立つ者の義務として遺される家族等に「想い」を遺していただきたいですね。